社員が個人の判断でAIを使い始めている。止めるべきか、認めるべきか。決めかねているうちに、業務の情報が外部に出ているかもしれない。
この状態を放置する方が危険です。ルールは、A4一枚から始められます。何を決めればよいかを整理します。
禁止すると、見えないところで使われる
「業務では使用禁止」と通達する会社があります。判断としては分かりますが、実際には次のことが起きます。
- 個人のスマートフォンで使われる
- 使っていることを報告しなくなる
- 問題が起きたとき、把握が遅れる
禁止して守られるのは、監視できる場合だけです。使い方の線を引いて、見えるところで使ってもらう方が、実際の危険は小さくなります。
決めるべき5つのこと
| 項目 | 決める内容 |
|---|---|
| 何に使ってよいか | 業務の範囲。下書き、要約、調べもの、など |
| 何を入れてはいけないか | 個人情報、取引先の情報、未公表の計画など |
| どのサービスを使うか | 会社が認めたものに限るか、自由か |
| 出てきたものをどう扱うか | そのまま使ってよいか、確認が要るか |
| 困ったら誰に聞くか | 判断に迷ったときの相談先 |
5つ目を決めておくのが、実は最も効きます。「迷ったら〇〇さんに聞く」と書いてあれば、判断に迷う場面で勝手に進めることがなくなります。
入れてはいけない情報を具体的に書く
「機密情報を入力しないこと」とだけ書いても、守られません。何が機密なのか、人によって判断が違うためです。
例を挙げて書いてください。
- お客様の氏名、住所、電話番号、メールアドレス
- 社員の個人情報、給与、評価に関すること
- 取引先から受け取った資料、図面、仕様書
- 見積の原価、仕入先、値引きの条件
- まだ公表していない商品や計画
- システムのIDやパスワード
あわせて、「入れなくても用は足りる」ことを伝えてください。文章の下書きを作らせるだけなら、社名は「A社」で構いません。この一言があると、現場で工夫が生まれます。
使うサービスを決める
会社として認めるサービスを決める場合、確認しておきたい点があります。
- 入力した内容が学習に使われない設定があるか。プランや管理画面の設定で切り替えられる場合があります
- 利用規約とデータの取り扱いに関する記載。どこの国のサーバーで処理されるかを含めて確認してください
- 会社として契約できるか。個人契約のまま業務で使うと、退職時に引き継げません
3つ目は見落とされがちです。担当者が個人のアカウントで作った資産は、その人が辞めると失われます。業務で使うなら、会社の契約にしておいてください。
出てきたものの扱いを決める
AIが出した文章や画像を、そのまま社外に出してよいかを決めておいてください。
考慮する点は3つあります。
- 内容が正しいか。AIは事実でないことを、事実のように書きます
- 他人の権利を侵していないか。出てきた文章や画像が、既存のものと似る場合があります
- 誰が責任を負うか。AIが書いたものでも、社名で出せば会社の文書です
実務的には、「社外に出すものは、担当者が内容を確認してから出す」と一行書けば足ります。細かく分類しようとすると、ルールが複雑になって読まれません。
厳しすぎるルールは使われない
ルールを作るとき、あらゆる場合を想定して細かく書きたくなります。しかし長い規程は読まれません。
現実的な形は次のようなものです。
- A4一枚に収める
- 入れてはいけない情報の例を、箇条書きで並べる
- 判断に迷ったときの相談先を書く
- 3か月後に見直す日を決めておく
4つ目を入れておくと、完璧なものを最初から作ろうとしなくて済みます。使いながら分かることの方が多いので、直す前提で始めてください。
配って終わりにしない
ルールを作って配っても、読まれなければ意味がありません。紙を回覧しただけでは、翌週には忘れられます。
現実的な伝え方は、次のようなものです。
- 実際に使ってみせる。朝礼で5分、1つの作業をその場でやってみせる方が、説明より伝わります
- やってはいけない例を見せる。「お客様の名簿をそのまま貼る」といった場面を具体的に示す
- 聞ける相手を決めて、名前を出す。「総務の〇〇さん」と書く
2つ目を伝えるとき、叱責の調子にしないでください。「知らずにやってしまいがちなこと」として伝える方が、後から相談してもらえます。責められると分かっている相手には、問題が起きたことを報告しなくなります。
使われているかを見る
ルールを作った後、3か月ほど経ったら状況を確認してください。見るのは2点です。
1つは、そもそも使われているか。誰も使っていないなら、ルールの問題ではなく、使い方が分からないか、使う場面が見えていない可能性があります。
もう1つは、ルールが邪魔になっていないか。「これは入れてよいのか分からないので、結局使わなかった」という声が出ているなら、線引きが曖昧だということです。具体例を足してください。
この確認は、聞き取りで構いません。使っている人に「困ったことはありませんか」と聞けば、直すべき箇所が出てきます。
ルールの案をAIに作らせる場合
たたき台をAIに作らせることもできます。ただし、出てきたものをそのまま配らないでください。
一般的な規程の文例は出てきますが、自社の業務内容や、扱っている情報の種類が反映されていません。「うちの会社では、こういう情報を扱っている」という前提を書いて渡してください。
業種によっては、業界団体や監督官庁が指針を示している場合があります。該当する場合は、それに沿っているかを確認してください。判断に迷う場合は、社会保険労務士や弁護士に相談してください。
まず作るなら
「入れてはいけない情報の一覧」と「迷ったら誰に聞くか」の2つだけを書いて配ってください。これだけで、大きな事故はかなり防げます。
実際の業務でどう使うかは、会議の議事録やメール返信の下書きなど、作業ごとにまとめています。どこから始めるかはAI活用を始める前に確認しておきたいことをご覧ください。
ここで扱っていない業務については、どの業務からAIを使い始めるかから探せます。議事録、見積書、メール、資料作成、問い合わせ対応など、作業別に分けてあります。
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